歯ブラシAIを込めてデータ駆使時短設計
2020年07月04日
ライオン、研究開発に活用
ライオンは人工知能(At)を用いた歯ブラシの開発を始めた。誰しもが日々使う歯ブラシは一見すると単純な構造にも見えるが、実は商品ごとに細かな特徴があり、これまで研究開発に多くの時間がかかっていた。過去のデータをもとに仕様の設計にかかる時間を大幅に短縮し、素早く商品化できる体制を整える。
歯ブラシは歯と接する「ヘッド部」、手で持つ「ハンドル部」、この2つを接続する「ネック部」の3つからなる。それぞれ商品ごとに材質や太さ、長さ、曲線の角度などが異なり、こうした仕様の設定に開発時間の大分部を費やしている。
このほどNTTデータと米データロボットが提供するAI支援サービスを導入し、こうした開発プロセスを短縮する取り組みを始めた。NTTデータがデータロボットの」持つAIのプラットフォームを用いて、ライオンが蓄積した仕様などのデータを活用する方法を指南している。
歯ブラシの開発研究は研究者の経験と勘に頼る部分が大きかった。
いくつものサンプルを作成し、最終的に最もコンセプトに合った商品を選ぶというのが従来の方法。太さ、長さ、材質といった個々の要素を少し変えるだけで別々のサンプルが必要になるため、数日間もかかっていたという。AIを用いて仕上がりを予測することで、実際にサンプルを作らなくても、コンセプトに合った仕様かどうか判断できるようになった。
最終的には実物を手にとって確認する必要があるが、サンプル数は2~3種類で足りるため、数日かかっていたプロセスが約1時間で済むという。
規格を満たしていることを保証する作業も進めてなくてはならない。この仕様なら基準を満たせるのかといったこともAIが判断する。
研究開発にAIを用いた歯ブラシの発売はまだ先だが、すでに他の分野への応用にも着手している。
例えば、洗剤ではAIに成分を調合した結果などを予測させるといった具合だ。ライオンは2019年1月に「データサイエンス室」を新設した。
個人の力量に頼っていた研究開発に関するデータを一元管理し、新商品開発の時間の短縮を目指す。人間の仕事がAIに取って代わられるという脅威論は研究に限らず、他分野でもみられる。
ライオンではAIに任せられる部分は任せ、人はよりクリエーティブな仕事に注力する。ライオンが目指す研究の高付加価値化はAIとの共存に向けた1つの解決策とも言えそうだ。今後は研究活動に限らず、経理などのバックオフィスやサプライチェーンにもAIを活用していく方針だ。
新規事業立ち上げのノウハウを持つ社外の人材を副業で招くなど、AIと人とが融合しながら日用品の分野から飛び出す。会社全体のアップデートに向けた取り組みを着々と進めていく。
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