受診控えで急増 コロナ虫歯
2020年09月19日
お菓子増え重症化…抜歯や舌がんも
新型コロナウイルスの感染拡大で歯科医師の受診を控えた結果、虫歯などが悪化するケースが増酬えている。患者が感染リスクを避けたいのはもちろんだが、別の病気になっては元も子もない。医療機関の経営も悪化しており、業界は対策の徹底をアピールしている。
「歯を失う人がとても多い。学校がないことで家で過ごす時間が長く、普段と違う食生活になった結果、虫歯が増えている」東京都立川市で診療台二十台を備える歯科診療所
「相互歯科」副所長、岩下明夫さん宝もが話す。入り口で検温を行い、「密」にならないよう予約を少なめに調整。フェースシールドやマスク、ビニールエプロンの着用を徹底し、換気を怠らないが、受診控えはなかなか減らない。コロナ禍のストレスで奥歯をかみしめて歯が欠けたり、歯槽膿漏が悪化したりするケースもある。「安心して来てほしい。大丈夫ですから」全国保険医団体連合会(保団連)が六~七月に二十三都府県の歯科医療機関二千六百四十七カ所に行つたアンケートでも、「休校による食生活の変化やフッ素洗口がないため、小児の虫歯が増加している」「小児のお菓子を食べる回数が増え、虫歯が増えた」といった事例が並んだ。「しこりを自覚していたが、受診を控えたため、四カ月後に舌がんだと分かった」「重症化により抜歯症例がとても増えた」などの訴えもあった。
神奈川県保険医協会のホームページによると、七月の調査で受診遅れで重症化したケースが見つかった医療機関が59%あった。歯周病の悪化が三十五件と最も多く、虫歯の進行も十八件。「三カ月来院されず、仮歯が離脱し、内部が大きな虫歯になつてしまっ
た」「義歯が痛くても我慢していた高齢の方は、ひどい義歯性潰癌になつていた」など結構深刻だ。茨城県保険医協会の調査でも、歯周病や機業憶歯周炎(歯の根の炎症)が報告されている。
受診控えは、保団連の調査で89%が「外来患者が減少した」と答えていることで明らかだ。減少率は都市部で大きい。「持続化給付金の申請要請に該当せず、大変厳しい」「閉院を考えている」という訴えもある。
「半世紀以上働いてきて、こんな状況は初めてだ」と、東京都港区虎ノ門の「さくらだ歯科医院」の中川勝洋さん(77)は頭を抱える。家賃だけで月に八十万円近くの固定費がかかる。「国からの給付金も支給が遅い。持ちこたえたいが…」
コロナ感染を心配する患者が受診を控えたとみられるが、歯科治療の現場はコロナ禍の前から、唾液や血液を含んだ飛沫が飛び散らないよう敏感に対応している。歯科治療に起因したクラスター(感染者集団)は確認されていない。
日本歯科医師会は八月から、感染防止対策の基準をクリアした医療機関にステッカーを発行する事業を始めた。常務理事の三井博晶さん会(62)「安心を見える化して、アピールしていくことにした。虫歯に自然治癒はない。重症化する前に安心して来てほしい」と語る。
患者はどうすればいいのか。医療ジャーナリストの油井香代子氏は「受診する際には、医療器具を使い回ししていないかなど、基本的な対策を患者自身で確認する必要がある」と指摘。その上で「歯科医師は神経質になるほど対策を取つている。心配なことがあれば事前に相談し、受診控えを解消する道を探るべきだ」
と話す。