社会の岨噌力低下
2021年06月04日
高級食パンブームの裏側
「もちもち」「ふわふわ」「しっとり」ーー。ブームが続く高級食パンを表す言葉である。パンの年間支出額が
コメを上回ったのは10年前(総務省「家計調査」)。日本のパン市場は、軟らかいパンが主流でハード系は通好みと言われる。伝統的な食生活が崩れたのは、1980年代。その頃、すでに食事における岨噌(そしゃく)回数は、戦前の半分以下であった。軟らかい食べ物を好む軟食化は進み、ガムも軟らかめの製品が登場する。
岨噌とは、奥歯で食べ物をすりつぶし、唾液と混ぜて膝下(えんげ)しやすい固まりにすること。顔・顎・舌の筋肉を複雑に動かす運動である。固いパンや赤身肉を好む欧米の食生活に比べて、日本食は軟らかい。根菜類など歯応えのある食材もあるが、最近は敬遠する人も多い。
高齢化の進展も軟食化が進む要因だ。「ゆっくりよくかんで食べていない」と回答した人の割合は52.1%。半数強の人がかむことをおろそかにしている。
食の多様性(フード・ダイバーシティ)という考え方がある(図参照)。
多様な自然環境を保つことが食材の豊かさを守り、多様な文化に応じた食材を供給する必要もある。食べる人の好みへの対応も大切。多様な食材が手に入ることは、健康につながる。食の多様性を支える基盤となるのは、「もちもち」「ふわふわ」「しっとり」から、「かりかり」「がりがり」「ばりばり」まで、食材の硬軟を問わない十分な岨噌力である。
柔らかい物でも硬いものでもよく噛んで食べましょう!